
・マレーシアのルンダンという料理。
ルンダンはインドネシア、マレーシア料理の店に行けば大抵食べられるが、インド料理やタイ料理と違ってインドネシア料理、マレーシア・シンガポール料理が食べられる店は都内でもそう多くはない。そこでレトルトパウチという選択肢がある。気鋭の食品メーカー「36チャンバーズ・オブ・スパイス 」の製品。
「馬来風光美食 エレン 監修 ビーフルンダン」がマレーシア料理の扉を開くのにハードルが下がる良いものだと感じている。
・36チャンパーズ・オブ・スパイスという会社
同社はいつでも目の付け所がいい。食品会社は「好き」で成り立っているところは少ない。当たり前だ。ところが36チャンパーズ・オブ・スパイスはどうも「「好き」で成り立っている匂い」がするのだ。もちろんそれだけでは運営はままならない。しかしこの会社、時代を読み、風に乗り、うまく「好き」と「ビジネス」のバランスを作り上げてしまった。
こういうものが好きな顧客をちゃんと集め、広い幅で浅い客、という従来型の当たり前の戦略を取らず、範囲を狭めて集中させ太い客を作るというマーケティングで当たりを引いてゆく。そうやってレトルトカレーの新しい価値観を作り上げた。言い換えれば、製品もそれを買うコンシューマーも含めて「仲間を作りながら進む」という歩みに見えるのだ。なんとまあ、気分の良い商売だろうか。そしてそれに時代が追いついてきた。それが現在。

・失われた馬来風光美食・エレンさんの味。
この「馬来風光美食 エレン 監修 ビーフルンダン」はいまは亡き「馬来風光美食」店主エレンさんが監修。荻窪、青梅街道の荻窪駅手前の跨線橋の坂道の途中に「馬来風光美食」というマレーシア料理のスナックとでもいうべき家庭的でこじんまりと快適な店があった。店のママであるエレンさんが料理から接客までを仕切ってくれる。とてもチャーミングなひとで料理も、可愛らしい笑顔と振る舞いも、どちらも魅力的であった。そんな生前の彼女の監修で出来上がったのがこれなのだ。もう食べられなくなってしまったエレンさんの味。彼女はわたしたちに素敵なプレゼントを残していってくれた。

・ルンダン、その味とは。
これ、どうにもうまい。恐るべき仕上がりとでも言えそうな、よくぞここまでといういい意味でのクセを感じさせる。確信犯的にすごいのを作り上げてしまって、しかしがっちりと人気を博しているのだ。でなければこれほどメディア露出の多い理由がないではないか。
現地料理としてリアルに作られているこのレトルト。味はざっくり言うと、すっぱからく、香り豊か。カルダモンが緑と黒の2種であろうか、軽やかな香りを乗せてくる。スターアニスのオリエンタルな香りもアジアの料理らしい雰囲気を醸し出す。生姜がぐいっと効いているのもいい。ココナッツミルクで濃厚なソースにオリエンタルな香りを乗せまとめてある。決して難しい味ではない。素直に美味しいのだ。ビーフのかみごたえしっかりで、出涸らしなどではなくきちんと強い旨みを持ったいい肉、デカ肉なのにも驚かされる。

・アジアの郷土料理。しかし、カレー。
間違ってはいけないのはこれはカレーではないということ。アジアの国の郷土料理、マレーシアの料理としてちゃんと成り立っている。が、カレーという言葉がきっかけで日本の食卓に入り込むことができる味の幅をも併せ持つ。アジアの料理はいつでもそんな感じで海の向こうからカレーに化けてやってくる。
改めて、これはなかなか大したものなのだ。相変わらず感じる「なぜこれがスーパーマーケットの棚にあるのか?」そう訝しむくらいの現地感。食品メーカー「36チャンパーズ・オブ・スパイス」は毎度本当にいいものを繰り出してきて驚かされる。
